ガンダムSES 第1話 『白い反逆者』 (2)
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「あなたが相沢祐一君ね。話は聞いているわ」
名雪に案内された“ここで一番偉い人”がいる部屋。
そこに入って中で早くも執務を始めていたらしい人物を見て、祐一は驚いた。
その人物―――いや、その女性は、自分と年がそれほど代わらないほどの少女とも言えるほどだったからだ。
ウェーブのかかった茶色のかかった長髪と、その端正な顔立ちは大人らしい美貌を醸し出している。
名雪の顔立ちもかなり整っているが、こちらは可愛らしいといった顔立ちで、この名雪とはまた正反対の意味での美人だった。
「あんたがここの司令官なのか?」
祐一は思わず訊いていた。
立場的には上官になるにも関わらず、その外見から同級生とでも話している気分になったのだろう、思わずタメ口に祐一は放してしまっていた。
しかし、そのリーダーらしい女性はそんなことを気にすることもなく、にっこりと微笑んだ。
「ええ、あたしは
そこで、祐一は先ほど随分と失礼な口調で、失礼な質問をしてしまったことに気付き、慌てて姿勢を正す。
「申し訳ない。先ほどの非礼、お許しください」
「何畏まってるの。別に話し方なんて気にしなくてもいいわ。あなたとあたしは同い年なんだし」
「なに?! そうなのか?!」
一瞬前の畏まった態度はどこへやら、またもや口調が崩れる。
そんな祐一の様子に少し呆れつつも、苦笑いを浮かべる。
「あなたは名雪と同い年なんでしょ? あたしも名雪とは同い年だから、必然的にあなたとも同い年になるじゃない」
「い、いや、そうじゃなくてだな……」
祐一は改めて香里の全身の見回す。
その目には妙な意思が全く混ざっていないことは分っていたが、自分の体を眺め回されていい気分のする女性―――いや男性もだろうが―――はいないだろう。香里とて同じだった。
「新入り君、あなたはどこを見ているのかしら? 答えによっては容赦しないわよ」
香里がそう言うとたちまち香里の体から殺気とも妖気ともつかぬオーラが発せられ始めた―――気がした。
実際、祐一は“何か”を感じ取り、そこで自分がかなりいただけない行動に走っていた事に気づく。
慌てて視線も元に戻し、姿勢も正す。
「し、失礼した。あまりにも大人っぽい風貌だったから、本当に名雪と同い年なのかと思ってしまって……」
「そ、そう……。まあ褒め言葉として受け取っておくわ」
あまりの素直な祐一の答えに、香里は思わず答えに詰まってしまう。
それと同時に、発せられていたオーラ(?)も静まり、祐一は安堵する。
「とりあえず……」
香里は改めてこほん、と咳払いをして改めて祐一を見据える。
それに何かを感じたのか、祐一もその視線に応じるように香里を見据えた。
「反帝国派武装組織“ホワイト・レジスタンス”へようこそ……。我々は、志を同じくするあなたを歓迎するわ」
香里は言い終えると同時に、右手を差し出した。
祐一もそれを握り返す。
「よろしくお願いする、司令官殿」
「香里でいいわよ。同い年なんだし」
「じゃあ、俺も祐一でいいぞ」
「それは遠慮しておくわ。こちらこそよろしく、相沢君」
そこで互いは手を離し、微笑みあった。
名雪はよこでその様子を微笑ましそうに、そして名雪はほんのちょっとだけ、祐一との友人としての仲を一瞬で深めた香里に“じぇらしー”という物を感じていたのは、全くの余談だ。
「そこに座って、相沢君。簡単にこの組織について説明するわ」
香里は、執務机の前に置いてある1人掛けのソファーを勧めた。
上官である香里より、部下である自分の方が高級な椅子に座るのは少しだけ憚(はばか)れたが、そんなことは、この場では気にするだけ無駄だと思った祐一は遠慮なく腰を降ろした。
勧めた香里は執務机(といっても学生が使っているような勉強机と大差ない)から椅子(これも学生が使っているような回転椅子で、ひじかけすらない)ものを引っ張ってきて、祐一と向かいになるように座り、足を組んだ。
名雪は―――この部屋は寝室も兼ねてるらしい―――固定タイプのベッドに腰を降ろした。
「説明って、資料も何もなしにするのか?」
「まさか。いくらあたしでもここの全ての構造を正確に暗記することはできないわ。というか不可能に近いわね」
「じゃあ、何で資料らしきものをお前は持っていないんだ?」
「それなんだけどね。本当なら、あなたの来る前に届けるよう“あの子”に頼んでおいたのだけれど―――」
と、香里が喋ってる途中当たりから、こちらに走ってくるらしい足音が近づいてきているのに祐一たちは気がついていた。
案の定、足音はこの部屋の前で止まり、急いでいるのか荒々しいノックが打たれた。
「いいわよ、入りなさい」
「し、失礼します……」
いかにも息絶え絶えといった様子のこれまた少女が紙の束(それほど厚くはない)を持って入ってきた。
ボブカットに切った黒髪からがよく似合い、これまたなかなか可愛らしい娘だな、と祐一は思った。
勿論、そんな風に鼻の下を伸ばしていたら名雪に起こられそうなので、表情は無表情のまま固定していたが。
「
「えぅー、いいじゃないですかぁ、6分半ぐらい。私だって仕事が一杯あるんですよぅ」
栞と呼ばれた少女が、香里の説教に抗議する。
しかし、香里は取り合わない。
「全く……。大方、司令室でさっきまで居眠りでもしてたんでしょう」
「な、なんでそれをっ! 司令室には私と
「髪が寝癖だらけだったら、誰だって想像はつくわ」
香里に指摘されて、初めてその事実に気付いたらしい。
慌てて手鏡を取り出して髪を手櫛で整え直そうとするが、焦っているためかなかなか上手くいかない。
見かねた名雪がどこからか取り出したブラシを手に、栞に近づいていくと髪を整えるのを手伝っていた。
「ぷっ……。あはははっ!」
そこまでが、祐一の限界だったらしい。
祐一は堰と切ったダムの水……とまではいかないが、もう我慢しきれなくなったのか、笑い続ける。
そんな祐一の様子を見て、栞と呼ばれた少女はしばらくとぽかんと祐一の笑う姿を見つめていたが、その笑いの種が自分である事に気づいて、たちまち頬を膨らませる。
「酷いです! 女の子の恥ずかしいところを見たうえに、それをネタに笑うなんてっ」
結構本気で起こっているらしいが、全然迫力もなければ恐れるものもなかったのはいうまでもない。
「い、いや、すまない……。これでも結構我慢したんだ」
祐一は笑いをなんとか静めようとしながらも、まだ堪え切れていなかった。
「栞、あなたが悪いわよ。そんな状態で入ってくるあなたが悪いわ」
「だってしょうがないじゃないですか居眠りしてて起きて慌てて資料を準備してここまで走ってきてエレベーターがなかなか来ないから階段を使って上る羽目になったんですよそしてやっとついたと思ったらその中には男性がいてしかも私の髪は大爆発状態これをどう思いますかこれはどう見ても私に対する何かの陰謀としか思えませんそうです帝国の諜報員がここに潜入して糸を引いているに違いありませんお姉ちゃんすぐに全部署に警報を!」
この台詞を一言で喋りきったこの栞という少女には、尊敬の念を抱いてもいいかもしれない、と祐一は本気で思った。
案の定、全力疾走してきてから時間が経っていない上に、こんな長い台詞を長々と喋ったお陰でこの少女はさらに息絶え絶えになって苦しんでいた。
一方の香里は自業自得よ、と言った表情で少女を見ている。
名雪のほうは愛想笑いしかできないみたいだった。
「……で、香里。この娘は?」
「あたしの小間使いよ」
「違います!」
息はまだ苦しいだろうに、即座に否定する少女。結構根性は座っているのかもしれない。
「……冗談よ。ほら、栞、自己紹介しなさい」
「なんか結構本気だった気がしますけど、まあいいです」
少女は少し息が整ったらしく、香里のほうに一瞥をくれると祐一の方を向いた。
「
「どうして俺の名を?」
「ふふっ。司令室室長、と言ったでしょう? ここで一番情報の集まる部署に勤めてるんですから、新しく入る方の情報くらい、既に知っていますよ。あ、さっきの、ちょっと格好良くなかったですか?」
「全然」
「はう、酷いです……」
へこむ栞の姿を無視して、祐一は栞と香里の姿を見比べていた。
「なあ、香里。同じ『美坂』姓ってことは……」
「ええ、この子はあたしの実の妹よ。色々苦労掛けてくれるわ、ほんとに」
やれやれと肩を竦めながら言う香里を尻目に、祐一はこの姉妹って余り顔は似てないなあ、とか思っていた。
しかし、まだ会ったばかりだがこの栞を見ていると、何となく姉である香里がしっかりものに育って、今の姿になっていると考えれば、成る程、確かに姉妹らしい姉妹と言えるのかもしれない、と祐一は納得してしまった。
「大きなお世話です、相沢さん!」
いつのまにか立ち直ったのか栞が祐一に向かって怒鳴っていた。
やっぱり、全然怖くなくて、むしろ可愛らしかった。
「うおっ、俺の心を読んだのか?!」
「思いっきり口に出して喋ってたよ」
名雪が指摘してやる。
またか、と言った表情で蟀谷を押さえる祐一。
実は、祐一には考えていることを口に出して喋る癖があることを述べておく。
まあ、大したことではないが。
「おお、そういえば」
祐一は何かを思い出したように、ぽんと手を打つ。
「俺の自己紹介がまだだった。俺は相沢祐一。パイロットとして新しく入る事になった。司令室のオペレーターなら色々と世話になることが多そうだな。よろしく頼む、栞。俺のことは、祐一でいい」
「はい、じゃあ祐一さんとお呼びします」
栞はさっきまで起こっていた顔を、笑顔に変えて言った。
―――さっきまでの怒りは演技だったのだろうか……。
そんなことを思って、なかなかこの栞という娘はしたたかなところも持っているのではないだろうか、と祐一は思う。
(余り油断しない方がいいかもしれない……)
と心の中で祐一は呟いた。
「自己紹介が終わったところで、栞。頼んでたものは?」
「あ、はい、そうでした。これです」
栞は持っていた紙の束―――それほど厚いものではないが―――を香里に渡し、残った1枚の紙を祐一に手渡した。
祐一はそれを受け取って、見てみるとそれは何らかの地図らしかった。
大学に行っておらず、高校までは通っていたものの普通高校だったためにこういう知識には疎かった祐一には、何が描いてあるのか、ざっと眺めてみてもさっぱりだった。
「この地図は?」
祐一は紙から目を離し、栞のほうを向いて言った。
「この3階―――つまり、居住区のものです。生活に必要なものなどは全てこの居住区で手に入ります。支給されるもの、購入しなきゃいけないものとかは物によって色々ですが、とりあえずそういったことを担当している部署の場所とかも描いてますから、暫くはそれを参考にして下さいね」
「ふーん……」
祐一はもう一度地図に目を戻す。
すると成る程、栞の言うとおりどこが誰の部屋で、どこが空き部屋かどうかはもちろん、食堂や売店などの位置が事細かに描きこまれている。
これがあればとりあえず迷わずにはすむだろう。
……自分の現在地を見失わなければの話だが。
「成る程、ありがとう」
祐一は笑顔で栞に礼を言うと、再び香里の方に向き直った。
「まあ、あなたに渡すべき資料はそれだけよ。資料も来たことだし、簡単だけどあなたにこの組織について説明するわね」
香里はそう切り出して、話し始めた。
まず、“
これは祐一には話されていないが、組織に身をおく人間にとっては公然の秘密となっている極秘事項、それは南西部を領土とするアジリア共和国からの支援を受けていることだ。
なぜ共和国がそんなことをするかと言えば答えは簡単、共和国の掲げるイデオロギーと神聖帝国のイデオロギーはお互いに決して相容れない関係あるからだ。
無論、共和国政府としても戦争は回避できないこととして考えていたし、神聖帝国もかつての大陸統一帝国復活のためには、戦争と言う手段しか残されていないことを理解していた。
しかし、正面切った全面戦争となると、工業力と経済力で南部二国を上回り、軍事力でも災害前の水準にどんどん迫りつつある帝国と戦うには共和国は不利を否めないことも感じていた。
そこで、共和国が取った策が神聖帝国の現体制に反対する勢力を利用した神聖帝国軍の戦力分散作戦だ。
大災害以来、現神聖帝国に対する国民の反発は未だに根強く、表面化はしていないが心の中では神聖帝国の一刻も早い崩壊を望んでいる人々も少なくなかった。
実際、その現体制への不満が北部における武装勢力に相次ぐ蜂起がそれを現している。
当時は南部二国も成立したばかりで、戦争など開始する余裕がなかったこともあって神聖帝国軍は強力な戦力を武装勢力鎮圧に向かわせることが出来ている。
しかし、組織の力を弱めることが出来ても、根底からその組織を破壊することはどんな強力な軍隊を持ってしても難しいことは歴史が示すとおりだ。
案の定、神聖帝国軍総司令部が発した鎮圧作戦開始から1年ぐらいで殆どの勢力はその力を弱めてものの、少人数による帝国軍への襲撃を繰り返し、少なくない犠牲を帝国は強いられ続けていた。
やがて北部に多数存在していた中小規模のレジスタンスたちは連絡を取り合い始め、同時多発的な攻撃が増加していく。
同じように、帝国軍の被害も増加していった。
鎮圧作戦によって弱体化したレジスタンス組織たちを見て、戦力を国力と軍事力を増大させつつある共和国と皇国に振り向けつつあったことも、攻撃の激化と被害増加に繋がっていく。
そこで帝国がやむを得ず行うのは南方における戦力の北方転換。
一部とはいえ、強力な戦力の北方転換は勢力を盛り返していたレジスタンスたちにとっては致命的な事態に陥るものも多かったが、共和国政府はそれでも構わないと考えていた。
完全に消滅しない限りは、帝国軍の一部の戦力は北方に駐留させざるを得ないのだから。
この共和国政府の目論見どおり、北方戦力強化によって壊滅するレジスタンス組織が続出したが、少数のレジスタンス組織がかろうじて生き残り、抵抗を続けている。
この中には高度に組織化され、独立戦隊と言っても差し支えないぐらいの戦力をそろえるものも現れる。
相沢祐一が所属するWRはそのひとつだ。
これらの組織には共和国国防軍からひそかに軍人や技術顧問などが派遣されたものもある。
その帝国への一大抵抗組織、WRの本拠地は、それが大陸の北端に近い場所に位置するノースアスベイ州にある、小さな町イクヴィからおよそ200キロの山岳地帯の渓谷に位置する。
さらに、この本拠地はフェイクとしての意味を持つ神聖アジリア大帝国の廃棄研究施設の地下に存在している。
地下4階建て、述べ床面積は一万三千㎡にも及ぶこの巨大施設には、WRが共和国の後援の下に保有する兵器や武器などが集められた格納庫、構成員たちが生活する居住区、WRの頭脳としての司令室などが完備されている。
無論、この基地がばれて敵の襲撃を受けた場合の備えとして、対空迎撃システムも完備されており、地方軍事基地よりもさらに高い基地防衛戦闘能力を持っている。
それについては、今は詳しく述べるのは避けておく。後々語ることもあるだろう。
ともかく、ここまでの力を持つまでにいたったWRは、もはや独裁政治を認めず、人民の解放を目指す
「……で、俺の機体はもう準備してあるのか?」
香里の話が一段落し、その他細かいことについても栞に説明を受け終わったあと、祐一は香里に向き直って訊いた。
「ええ、格納庫に準備してあるわ。あなたの要望どおりの調整がしてあるはずよ」
「そうか、感謝する」
「お礼は整備長にでも言って頂戴」
香里が笑って言った。祐一はそりゃそうだ、と返して立ち上がる。
「格納庫に行ってくるよ。新しい機体だ、早くいろいろと慣れとかないと」
「そうね。早く戦力になってもらうためにも、期待してるわよ、相沢君」
「じゃあ、俺達はここで失礼する」
祐一は立ち上がり、香里に一礼してから部屋から出て行き、名雪も祐一と同じように香里に一礼して出て行く。
WRは軍隊ではないから敬礼の必要はないが、組織である以上、礼儀は軽んじるなかれ、だ。
扉が閉まった後、部屋には香里と栞が残される。
香里は立ち上がり、椅子を執務机へ元通り直して、そこに再び座りなおした。
それまでは手に持っていた栞から受け取っていた書類で、机を叩いてばらついていた紙の束を揃えて机の上に置くと、机の抽斗を引いて中にずらりと並べてある厚いファイルのひとつを取り出す。
それもまた置くと香里は再び先ほどの書類に向き直り、胸ポケットに刺してあったペンで何かの書き込みを始める。
そして香里は書類から目を外さないまま口を開いた。
「なかなか面白そうじゃない、相沢君って」
「そうですね。北川さんと似てる気もしますけど、ちょっと違う気もします」
栞はそう言い、香里が何かを書き込んだ書類を彼女から受け取り、それを持っていたバインダーに挟んだ。
「そうね……。性格としては北川君の方が明るいけれど、相沢君は北川君にはないものを持っている気がする」
「……?? それは性格、ですか?」
「何でも無いわ、ただの独り言。忘れて頂戴」
香里は苦笑いを浮かべて言った。栞はきょとん、とよく分らない表情を浮かべることしかできない。
ふっと香里は栞に分らないぐらいに小さく笑い、今度は栞のほうを向いて香里は口を開いた。
「それより栞、“テスト”の件はどうなってるの?」
「あ、はい。殆どの準備は整っています。あとは相手を誰がするかどうかだけで」
「相手、か。そうね、誰がいいかしら?」
香里は不敵な笑みを浮かべて、机上にあったパソコンのスイッチを入れた。
栞もまた。何故か楽しそうな表情で、部屋を出て行ったことを追記しておく。
- [2008/12/14 23:19]
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